イノベーティブな技術は、基本的には、要素技術的な事が多い
- 2010年05月7日
- Interview
加藤 : ISRATECHとしての活動は、イスラエルのハイテク情報をまとめています。
これまでの辻様が、日本とイスラエルのビジネスを携わられた方のご経験談は、大変貴重だと思っています。
日本は、資源が限られているので、技術力というか、頭を使い、国を発展させていくしかないでしょう。
イスラエルも同じ立場であり、お互いのビジネス、考え方の違い経験を、サイトを通じ、日本の技術者へ、より有意義な形で提供することを目的としています。
湾岸戦争以後の1990年代から、日本イスラエル商工会議所の副会頭までやられ、表面的なことではなくて、インサイドストーリーをいろいろとお話をいただきたいと思いまして…。また、日本の将来を担っていく技術系の高校生・大学生へも、イスラエルのイメージだけが先行している気がしますので、具体例やご経験談をお話しいただきたいです。
辻 : 私も過去様々な所で、『イスラエルのハイテク』についての講演をさせていただいた経緯があります。Q&A的なお話であれば、いくらでもお話しさせていただきます。
私の印象で申し上げると、イスラエルというのは、いろんな意味で人口、GDPの比率から見たら、世界にほとんど影響力がないにも関わらず、目立つ国である。どうしてそういうことになるのかといったら、米国のみに関わらず、オピニオンリーダー的な方、芸術家、医者など、世界各国に優秀な方がいらっしゃる。
勝手な日本人ビジネスマンの見方ですが、経緯はどうであれ、ユダヤ人の方は、歴史的につらい思いをされています。どんな財産を築いた所で、必ず、時の権力者からその財産を、奪われるという事が、定期的に起こってきた事実があります。
恐らくそういった背景もあり、唯一、奪われない財産である知識、教育への熱心度が高く、投資を惜しまない人種というイメージがすごくあります。日本とか、韓国とかで言われるいわゆる教育ママではない。
英語で、教育ママの一番正しいという言い方は、『 Jewish Mother 』という表現があるということを、日本の同時通訳界の草分けの村松増美さんに教わった事があります。
加藤 : たとえば、イスラエルと日本人の違いと言いますと…。
辻 : たとえば、いろんな会議の席上でも、日本は、大局的に反対側ですけど、企業の場合や学校の場合であっても、空気を読みすぎて、全体の流れに同化しようとする。
ユダヤ人とか、欧米の場合は、異なった意見を言う事によって、会議へ貢献する。特に、イスラエルの人は、悪く言うと、『自己主張が強い』ということになります。自分の意見をハッキリ述べて、『3人いれば4つの政党ができる』というジョークがありますよね。(笑)
そういう所で、新しいイノベーティブな技術が、生まれやすい環境にあるのではないでしょうか。それで、そういったイノベーティブな技術は、基本的には、要素技術的な事が多いですね。あるものを開発し、実用化する際、アプリケーションの段階で、具体的に量産、コストを加味して、市場へ投入していく際に、いろんな開発、改良をしていく必要がありますよね。
加藤 : はい。
辻 : 私のこれまでの経験ですと、イスラエルの企業は、『8~9割来ると開発を終了、完了。』とおっしゃります。ただ、日本の場合だと、99%まで来ても、まだ、『開発を完了』したといいませんよね。そこのギャップがものすごくあります。
イスラエルの技術を導入しても、製品化、商品化という流れで販売するまでに、時間がかかることが多い。日商エレクトロニクスでも、過去、商品化に2年半経過したケースもあります。その期間に、その会社も清算されたケースもあります。
こういったことは、善悪の話ではなく、日本の市場を対象にした場合、ガラパゴスと言われるぐらい特殊な面があるので、どうしてもそうならざるを得ない部分もあります。1990年代以降は、イスラエルの企業が米国に出ていき、本社機能を移しますので、米国で事業を立ち上げて、それなりの実績ができ始めた時に、イスラエルの企業というのはわかっていながら、米国の企業として、付き合って、展開するケースが増えてきています。
米国の市場はスタートアップを受け入れるだけの寛容な市場であり、日本は、残念なことですが、未だスタートアップを受け入れる環境は整っていない市場なのでしょう。徐々に改善はしているのでしょうが、国家として問題の一つだと思います。(※本インタビューは2010年5月に行われたものです。)
日商エレクトロニクスは、海外の技術、商材を日本で展開する事を会社の生業にしているわけですが、日本にも、いい技術は多い。ただ、日本の大手企業は、概して日本のスタートアップ技術をあまり採用しない。だけどもどういうわけか、日本は権威主義なのか、前例主義なのか、米国とか欧州の企業であれば、同じ規模のスタートアップだとしても結構受け入れられる余地がある。しかし、その場合であっても、日商エレクトロニクスのような企業が正面に立ち、いざという場合にも逃げずにしっかり対応するという仕組みが必要とされます。
加藤 : 本質的ではないですね…。
辻 過去、イスラエルとは関係ないですけど、日本初、世界で2番目の DWDM (光波長多重通信)を、米国のシエナ(Ciena)という数十人しかないスタートアップから導入した時や、ジュニパーネットワークス ( Juniper Networks ) も、今は、大きな会社になりましたけど、当時はスタートアップでしたし、VoIPのソーナス・ネットワークスなどもそうでしたね。同時期に、ザクト( XAct ) という課金システムのイスラエルの会社を導入した事がありましたけど、うまくはいきませんでしたね。ザクトは、結局アムドックス社 (Amdocs) へ買収されましたね。
たとえば、アムドックス社 を見てもよくわかりますよね。アムドックス社ってものすごく素晴らしい会社なのですけど、日本以外では成功しているのに、日本では成功しない。日本の特殊性…。
加藤 : なるほど、そうなんですね。
辻 : よくいわれる、グローバル企業でエアバスとアムドックスは日本以外ではうまくいっている。(笑)
最近もいくつかのイスラエルの企業が、日本で成功している事例がありますけど、基本的には、要素技術の会社で、IPを取得して、日本のメーカーが追加開発をし、量産化し、日本ならびに、世界に展開していくというのが、一番いい気がします。